映画『セブン』残酷な連続殺人を追う2人の新旧刑事の行きつく先は?

映画

1996年に公開され、4週連続で全米興行成績1位に輝いた大ヒット映画『セブン』。ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン共演で描くサイコホラーサスペンスです。

学生時代に初めて観た時の衝撃が強く、そこからデヴィッド・フィンチャー監督作品に夢中になった今なお忘れられない作品のひとつ。「グロいのはちょっと・・・」「後味が悪くて・・・」という方もいるかもしれませんが、作品としての完成度はありきたりなサイコホラー作品ではないと感じています。

今回はそんな『セブン』についてネタバレありの解説をしていきます。まだ見たことない、もう一度見返したいという方は、ぜひチェックしてください。

映画『セブン』のあらすじ

犯罪が日常茶飯事に行きかう街で一週間後に定年退職を控えた殺人課に所属するベテラン刑事サマセット(モーガン・フリーマン)。そこへ殺人課を希望した若手刑事ミルズ(ブラッド・ピット)が配属されます。

最初の出会いは事件現場のとある一軒家。遺体の場所へ向かうと、200キロ近くありそうな巨漢の大男が椅子に座っており、テーブルに置かれたパスタの皿に顔を突っ伏して死んでいるという奇怪な死体が。手足は縛られ、どう見ても普通の死体ではない様子。

事件が長引きそうだと感じたサマセットは、定年前にする仕事ではないと身を引こうとします。一方、自ら望んで殺人課にやってきたミルズはやる気満々。サマセットは一応ただの殺人犯ではないと忠告だけして身を引こうとしますが、そんな矢先に第二の遺体が発見されて・・・。

手柄をあげたい若手刑事と引退間際のベテラン刑事

「悪いヤツをどんどん捕まえてやるぞ」と意欲たっぷりのミルズにとって、すでに引退後の生活に想いを馳せているサマセットはしょぼくれたお爺さんに見えているのでしょう。実際、サマセットは引退間近なので特にミルズを教育する必要もなく、ただ危なっかしい若者に助言を与えているに過ぎません。

ところが、第二の殺人現場を見てしまったことで聡明なサマセットはこの事件の異様さを察知。突っ走らないように忠告しても聞きそうにないミルズが心配で、現場に残されていた手がかりである「七つの大罪」に関する情報を図書館で調査します。

情報をミルズに伝えたのでこの件とはもう関係ないと思いつつも、どこか放っておけないミルズをサポートするべくその後も事件に携わっていくのです。

ミルズの妻トレイシーの悩み

ミルズには妻トレイシー(グウィネス・パルトロー)がおり、元々別の街で教師をしていました。学生時代からの付き合いで結婚した素敵なカップルですが、新たに移り住んだ街の治安の悪さにトレイシーは不安を抱いています。

そんな中、夫の新たな職場の上司をもてなしたいというトレイシーの希望でサマセットを夕食に招待します。そこで会話した人柄からトレイシーはサマセットを信頼するに至り、後日長年この街に住むサマセットに夫に打ち明けていない秘密を相談するのです。

何気ない一幕ですが、トレイシーとサマセットの会話が後々この作品の残酷さをむき出しにしていくので要チェックです。

映画『セブン』のネタバレ解説

ここからは、映画『セブン』という作品についてさらに深堀していきます。

ネタバレもありますので、まだご覧になっていない方はご注意ください。

連続殺人のモチーフになっている「七つの大罪」とは?

「七つの大罪」とは、キリスト教で最も重い罪、言い換えるなら欲望を表したものです。

▼七つの大罪

  • 傲慢(pride):他人より優れていると驕り高ぶる
  • 強欲(greed):身の丈以上の大きな欲望を持つ
  • 嫉妬(envy):他の人の成功や美点を羨ましがり失敗や不幸を願う
  • 憤怒(wrath):我を忘れて怒り狂う
  • 色欲(lust):良くない性的な欲望を持つ
  • 暴食(gluttony):必要以上に食べる
  • 怠惰(sloth):働かず堕落した生活を送る

映画ではサマセットが図書館で文献を探し、「七つの大罪について、『神曲 煉獄篇』、『カンタベリー物語 牧師の話』カトリック辞典を見るように」とのメモをミルズに渡します。

しかしこれらの文献は非常に専門的で読みづらいため、ミルズは要約本を読んでいた描写があります。

『セブン』における七つの大罪

映画『セブン』の時系列に沿って、七つの大罪になぞらえられた事件を見ていきましょう

1人目:暴食(gluttony)

最初の被害者はとてつもない巨漢の肥満男性。テーブルに座らされて手足を縛られ、銃を突き付けられながら目の前に置かれた食べ物をひたすら食べるように強制されていました。

死因は食物を大量摂取した状態で腹部を強打されたことによる内臓破裂です。

2人目:強欲(greed)

次の被害者はお金に汚いとされる弁護士の男性。高級オフィスビルの自室で血まみれとなって発見された死体は、ちょうど1ポンド(約500g)分の肉が切り落とされていました。

これはシェイクスピアの「ベニスの商人」の中で、強欲なユダヤ人の金貸しが1ポンドの肉を担保にお金を貸すというエピソードに由来しています。

3人目:怠惰(sloth)

3人目の被害者は2人目の被害者の容疑者として浮かび上がってきた前科持ちの男。逮捕のために警察が部屋に踏み込むと、容疑者をベッドに縛りつけられた状態で発見。容疑者から一転、被害者になった男性は左手首を切られ、舌を噛み切った状態で廃人状態になっていました。

部屋の中には警察が踏み込んだ日からちょうど1年前の日付から毎日被害者の姿を映すポラロイドが残されており、日に日に衰弱していく姿は犯人の異常性を如実に表します。

4人目:色欲(lust)

4人目の被害者は娼婦。銃を突きつけられた客の局部に鋭利な刃物を装着させ、そのまま性交させるという残忍な手口です。客は犯人を見ているはずですが、精神的なショックからまともに犯人像をつかむことができません。

5人目:高慢(pride)

5人目の被害者はモデルの女性。顔を切り刻まれて、片手に電話、もう片方に睡眠薬の瓶を持たされて放置されます。結局女性は通報することなく睡眠薬で自らの命を絶つのです。

犯人(ジョン・ドウ)の人物像

犯人の名前として出てくる「ジョン・ドウ」とは、日本で言う「名無しの権兵衛」と同じ意味です。

ジョンは5人目の被害者が発見された後に自ら血まみれで出頭してきますが、本名や経歴は一切語らず、また目的についても何も発しません。ただ、「残る死体がある場所を教える」と言うだけ。

ミルズとサマセットはジョンを連れて死体があるという場所まで向かうことになりますが、最後までジョンのパーソナルデータやなぜこんな犯行を決行したのかという理由はわからずじまいです。下手に陳腐な理由を聞かされないところが、この映画の作品性をより高めているところです。

箱の中身は?

ジョンに指示された場所は砂漠の荒野。パトカーから降りたミルズとジョンは、ジョンの指示で少し離れた場所まで歩きますが何も見つかりません。そこへ1台の配達業者の車がこんな荒野のど真ん中へ1つの箱を届けにやってきました。

パトカーの近くに立っていなサマセットが箱を受け取りますが、その瞬間それまで無口だったジョンが饒舌に語り出します。ジョンはミルズの家庭に「嫉妬」してしまったと。
危機感を覚えたミルズはサマセットに箱の中身を訪ねますが、一向に答えが返ってきません。耐えきれなくなったミルズはジョンの頭に銃を突きつけます。再びサマセットに箱の中身を聞いても何とも言えない顔を向けるだけ。

最悪の事態を察知したミルズは、サマセットの静止の声もむなしくジョンの頭を打ち抜いてしまいます。

妻は死んでないって本当?

作中では、箱の中身をはっきりと言及するシーンはありませんし、映像もありません。あくまで視聴者もミルズと同じ立ち位置です。見えないけどそうなんだろうという推測なので、中には「妻は死んでないんじゃない?」という考察もあるようです。

しかし、サマセットが何も答えなかったところを鑑みると、わざわざ勘違いを放置しておく必要もありませんからトレイシーだったのでしょう。

残る「嫉妬(envy)」と「憤怒(wrath)」は誰の罪?

最後の経緯からわかるように、「嫉妬(envy)」の罪は犯人のジョンです。たびたび事件後の現場に現れていたため、担当刑事のミルズに関心を抱いてしまったのでしょう。ジョンの見た目は人畜無害な優男風なので、言葉巧みにトレイシーに近づいたのかもしれませんね。ミルズが知らなかった妊娠のことも知っていましたから。

そして、「憤怒(wrath)」はミルズです。

監督は至極のサスペンスを創り出すデヴィッド・フィンチャー

監督デヴィッド・フィンチャーのデビュー作は『エイリアン3』です。エイリアンシリーズという大注目の中で中々斬新なストーリーはすごく面白いのですが、当時は批評家や興行的にもうまくいかなかったようです。

その失敗で意気消沈していたところ、監督復帰作として今回の『セブン』を撮影したという経緯があります。
『セブン』が高評価となり一躍注目され、『ゲーム』『ファイト・クラブ』『パニックルーム』など数々の名作サスペンスを生み出しています。

随所で光る視覚や音響効果

本作品は最初からラスト手前までずっと雨や曇天で陰鬱なイメージを与えてきます。じめっとした雰囲気はどこか日本のホラーにも通ずるところがあるのかもしれません。何もなくても「怖い」と印象付けられます。

視覚的に嫌な感じを植え付ける一方、音に関してはリラックスさせるような効果が散りばめられています。例えば、サマセットが自室に置いているメトロノーム。カチカチと刻む音がどこか殺伐としたところから平静さを保たせようとすることで、物語に緩急が生まれているようです。

極めつけは図書館のシーンで流れるバッハの「G線上のアリア」。図書館で調べものをするという単純なシーンが何かとても重要なことかのように感じられます。

キャストの演技が自然体で素晴らしい

本作品は主要人物以外の顔は認識できるほど長く映っていません。そして主要人物たちは、こんなに殺伐としたテーマにも関わらず、人間臭く本当に生きているかのような自然体の演技がすごいです。

特に、妻トレイシー役のグウィネス・パルトローがそこまで登場シーンはないはずなのに、本当にさりげない演技が鮮明に記憶に残っています。当時そこまで有名ではなかったですが、その後アカデミー賞やゴールデングローブ賞を獲ったのもうなづけます。

映画『セブン』のネタバレ解説まとめ

ここまで、映画『セブン』についてネタバレありでご紹介してきました。まだ観たことない人や昔観たという人も今観ても色褪せずおもしろい作品です。お時間があったらぜひ鑑賞してみてください。

作品詳細

原題:Seven/Se7en(作中表記)
日本公開日:1996年1月27日
監督:デビッド・フィンチャー
脚本:アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー
出演:ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン、グウィネス・パルトロー、ケビン・スペイシー

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